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神宮前 瞬のつぶやきコラム

<ホテル編> グランドハイアット東京 −朝から晩まで食べ歩き−Part2(2004/07/20 UP!)

平成15年11月

天井から降り注ぐひまわりのような固定シャワーは、アジアの雨季のごとく一瞬にしてボディソープを洗い流していきます。得意ではないアルコールまでも一気に。

ふっ、と軽いため息。これは安堵でも軽い疲労でもありません。このひまわり固定シャワーをどうしても自宅に取り付けたくて、カタログを何度も指差すも、「日本未入荷です。」と冷たく言い放ったショールームの彼女の横顔を思い出したからです。バスローブを羽織り、春絵の寝顔を覗き込むと、少し開いた唇から微かな寝息。緩やかな弧を描いたペンライトのようなサイド灯が、春絵の顔一面に広がるミシン目のような跡を浮かび上がらせます。ミシン目?そう、ピーリングやフォトフェイシャルのように痛みの伴う美顔術しか納得いかなくなった春絵は、行きつけのクリニックで最近開発したという顔中にプラセンタを注射していく、いかにも効きそうな?最新兵器を試みたのです。ちなみに、常連のニューハーフの方は、あまりの痛さに途中で逃げ出したそうです。

そんな満足そうな春絵の寝顔を横目に隣のベッドへ滑り込もうとしたその瞬間、「ギャアアアアアーーー」という強烈な叫び声と共に、ガバッと起き上がり、ライトに浮かび上がる怯えた眉のないミシン目の春絵。視力0.03の春絵は、枕を抱きしめながら私の顔とまわりの様子を注意深く観察し、ポソッと「ウチで寝てると思ったの。で、泥棒が来たのかと思った。」もそもそとベッドに潜り込みながら、「もう、驚かせないでよ。」

朝食はクラブラウンジで。コールドミールのみですが、品数もそこそこ、味もまあまあ。このラウンジは滞在中何度かお邪魔しましたが、常時何かしら置いてあり、飲み物も豊富で、窓の大きく気持ちの良い空間です。椅子、テーブル、これ見よがしに飾ってあるバング&オルフセンのスピーカー。特筆すべきものは何もないのですが、時々見かけるスタッフの視線が痛いピリピリしたラウンジではなく、日曜日の昼下がりのような時間が流れているのです。あっ、そう。コーヒーは勿論、エスプレッソ、カプチーノ、カフェインレスコーヒー、ホットミルクから何とかマキアートまで、ボタンひとつで幾種類ものの飲み物が現れるマシンが置かれていています。「これ、ウチにも欲しい。・・・・・でも、そのうち飽きそう。」という春絵の好奇心を少しばかりくすぐるブツを、内心私も気に入ったのです。

ラウンジでチェックアウトを済ませ、昨日買ったブリザードフラワーとバッグを預けると、ホテルのショップやヒルズの散策を試みますが、なにせ何度も来ている六本木ヒルズ、見るべきものは既に見たと予約よりだいぶ早めのランチです。

グランドハイアット東京、最後のシメは寿司の「六禄」。幅広く、どこまでも続くような白木のカウンターに座ると、ヒカリ物を仕込んでいる板前さんの丁寧な仕事を目にすることができます。そして、見上げると大きなガラス越しに、積み上げた岩から溢れ零れ落ちる水。源泉から初めて地上に顔を覗かせたかのように、戸惑いながら岩肌を探るように落ちてゆく。昨日からしゃべり続け、もうどんな話題も尽きたであろう二人には好都合の止め処ない滝。「どんどん薬替えたじゃない。おじいちゃんのとこ、レパートリーが少ないらしいのよね。あとは頭がずんずんして、眠たくなっちゃう1種類しかないんだって。」春絵に話題が尽きることはないらしい。「アメリカじゃ子供からお年寄りまでみんな飲んでるワケよね、この種の薬。おじいちゃん、最新の仕入れてるのかしら?」

寿司会席≪ろくろく≫16,000円は肝心の握りの前に、季節の料理がふんだんに出されるけれど、どれも手を抜いたものはありません。目にも舌にも十二分に満足。ふと隣を見るとコーラです。ここは最新のハイグレードシティホテルの寿司屋のカウンター。デパートの寿司屋ではありません。凛としたモダン和風の空間。何人も居並ぶ板前達。給仕の美しい女性達は当然着物。寿司屋って、特にカウンターって、いつ行っても、幾つになっても自然と背筋が伸びてきます。程よい緊張感と共に、出された食材を素早く食べるというのが最低限のルールだと誰からともなく教えられてきた者として、マグロをつまみながらコーラを飲む、その光景を間近で目撃することとなったのですが、さて、問題です。余裕すら漂わせながら何ら恥らうことなく箸を進め、コーラをお代わりしても決して眉をひそめられないその人物とは誰でしょう?ヒント、子供ではありません。答え。見るからに高級そうなスーツに身を包んだ、年の頃60過ぎの白髪のアメリカ人です。怖いですね、知らないって。それにしても、置いてあるものなのですね、コーラって。そんなステキな六禄はリターン指数4。

会計時、珍しく自分の財布を出している春絵。カードを出そうとヴィトンのエピを開けると少し驚く着物の女性。そう、春絵の財布を開けるとそこにはでかでかと春絵のフルネームが書かれてあるのです。小さくローマ字で「harue」ではなく、油性マジックで書きなぐられた漢字の姓と名。ちなみに今持っているマルチカラーも、家に置かれているヴィトン、シャネル、エルメス等、全てのブランドバッグの底にはマジックで春絵のフルネーム。黒い素材には白いマジックで。以前泥棒に入られたとき、根こそぎ全部持っていかれ、それから彼女は買ったその日に名入れをすることにしたのです。泥棒にも分かるように大きく、はっきりと。「少し早かったかしら」と羽織ったフェンディの毛皮。秋風になびく裏地に燦然と輝く春絵のサイン。

グランドハイアット東京。ここの出現により周辺の数多くの同価格帯ホテルが苦心しているとの噂。ハードは洒落ているが、ソフトがそれに追いついていないという専らの評判に反して、私の評価はちょうど逆。ここのジャグジーはジャクソン社のものではなかったけれど、スイートやラウンジにはバング&オルフセンを置いて、水洗金具はスタルクを付けておけばひと安心という最近のホテルインテリアから一歩も出ることがなく、青山辺りの家具屋と輸入サニタリーショールームをセンス良く混ぜ合わせれば、みんな驚いてくれるでしょ、という巷に溢れるデザイナーズレストランのような匂いがします。果たしてこの内装で六本人は2度目の来訪がありえるのでしょうか?それを補うためのソフト、私は不満に思いませんでした。何も言わなくてもやってくれなくちゃイヤ、というサービスをここに求めていない私は、要求したことに的確に対処してくれた今回の滞在に関し、二重丸を付けたいと思います。帰り際、タクシー乗り場を顎で教えられたパークハイアットとは違い、一緒に乗り場まで案内してくれて、預けていた荷物を私に持たせることなく、トランクに入れてくれた笑顔の彼が下げている頭を、走り出すタクシーから角を曲がるまで見てしまった私。

飲食部門を除いた宿泊施設としてグランドハイアット東京を評価すると、リターン指数は3。あまりに家から近いので、宿泊する機会はそうないかもしれませんが、ここにはまだまだレストランがあります。ヒルズとホテルのレストランでサービスがどう違うのか、これって会社の社員教育の差が如実に分かりそうで、興味ありませんか?


グランドハイアット東京
港区六本木6-10-3
TEL 03-433-1234(代表)
(アクセス・地下鉄六本木駅から徒歩3分)

http://www.grandhyatttokyo.com/

神宮前 瞬 (じんぐうまえ しゅん)
1971年生まれ。男。2匹のチワワ、1匹のポメラニアンと暮らしていましたが、
さらにもう1匹ポメラニアンが加わり、にぎやかになりました。



ここは、ホテルやリゾートにあるライブラリーのように、気軽に読める文章をご紹介する別館です。旅に欠かせない「食」、旅先で見つけた「面白いもの」など、和める話題を提供していきます。ごゆっくりお寛ぎください。

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