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神宮前 瞬のつぶやきコラム

<旅館編> 強羅花壇 前編 (2004/01/20 UP!)

平成15年10月

TVから「ロマンスカーで箱根に行こう」っていうCMがガンガン流れ、駅や車内にも風情のあるポスターが数多く貼られ、なんとなくロマンスカーで箱根にでも、と思ったのが間違いでした。

強羅花壇に予約の電話を入れるとスチームサウナ・ジャグジー付き貴賓室(1泊2食ひとり75,000円)は約1ヶ月後しか空いていないとのこと。高い部屋から埋まっていくこの旅館は、全くの不景気知らずで、スパを始めてから益々人気が高いようです。でも、せっかく行くならこの部屋に泊まりたいので、快く1ヶ月お待ちすることにしました。そして、車を運転しない私は、交通手段として新幹線とロマンスカー、この二者択一を迫られます。新幹線なら小田原まで38分。一方、ロマンスカーは1時間25分。普段の私なら絶対に新幹線を選んでいるはずですが、春絵の一声でロマンスカーに決定!展望車を私が予約するよう命じられたのです。サングラス越しの目がそうしろと・・・。早速、新宿西口まで赴き、窓口で予約完了!最前列ではなく3番目でしたが、26日は日曜日なので仕方がないでしょう。

当日。私は、ヴィトンのモノグラム・マルチカラーのキーポル黒をメインにするため、アルマーニの黒いニットとグッチの黒のパンツ、プラダのヌバックブーツというシンプルな服装。春絵も、ヴィトンのマルチカラー、“目”がプリントされたサック・ジギャンティック“EYE DARE YOU”白をメインに、トップは同じくヴィトンのニット、色はシルバー。同色のヒールの高いブーツ。デザイナーと一緒に考えたというブレスレット。

皆様、ご存じでしょうか?私はまったく知りませんでした。日曜日のロマンスカーのホームは、9割方ご年配の方々で埋め尽くされているのです。駅やホームって普通、若い人からお年寄りまでいろんな方がいるじゃないですか。でも、ここは違います。当然、列車丸ごとご年配。いわゆる、はとバス状態です。いやー、私、別にご年配が嫌いというわけではなく、むしろ大好きな方なのですが、とにかくビックリ。まあ、ひとまず席に座ろうと指定されたシートまで来ると既に先客が。仕方がありません。ご年配の方にはよくあることじゃないですか。1号車とか2号車とか、A席とかC席とか分かりにくいですよね。切符に書いてある字だって小さいし・・・。「すみませーん」。微笑みながらお声を掛けたら、私の箱根旅行は順調にスタートするはずだったのです。

JTBで発行されたというそのチケットには、確かに私が座るはずの座席番号がしっかりと印刷されています。しかも、私が予約した日よりも5日も後に発行されたもの。しっかりしてくれよ、JTB。このご夫婦はきっとこのご旅行を楽しみにしていたのだよ。でも、こめんよ。ダブルブッキングとはいえ、こちらが先約。しかも新宿西口で直接購入した私達にその席の権利はあるだろう、と思いながらも、慌てふためくご夫妻に「とんでもないですね、車掌を呼びましょう」と口では憤慨ぶり。そこに女性スタッフが通りかかり、経緯を話してお互いの切符を見せると、彼女、顔色も変えずに言いました。私の切符を指差して「これ、10月16日ですね」。私、「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」。わかっていただけますか?この長ーい・・・の気持ち。ひょっとして私、購入時に駅員さんへ出発日を間違えて伝えてしまったの?春絵の目がいつも以上に見開かれ、少し口まで開いているのはなぜ?ヴィトンのモノグラム・マルチカラーのキーポルを持ちたいから決めたこの旅行の意味は?車内で食べようと、先ほど買ったウニとトロだけ一杯詰まった折り詰めってこんなに重かった?どうして、この列車、もう動いているの?「ごめんなさいね」と言い残し、ご年配の夫妻はゆっくりとご自分の席に戻られ、何事もなく座られたのです。

結局、私のチケットは乗車券が26日、特急券が16日で発行されていたのです。補助席に座る私と春絵。さっきから真剣に文庫を読みふけって、一切私と会話をしないのは、その本、とっても面白いからだよね。今度借りよーかなー。長く装飾されたネイルが、カチン、カチン、カチンと私の脈拍より速い速度で打ち鳴らされています。12時30分新宿発のロマンスカーの中では、あちこちから、お弁当をつまみながら繰り広げられる楽しそうな会話が聞こえてきます。暖かい秋晴れの、穏やかな日曜日。でも、一カ所だけシベリアの寒風が吹きすさびます。そこに、決して作り笑いを崩さない、ワントーン高い声の車掌がやってきて、4号車に空席があるからそちらへと言う。車内はほぼ満席。ほぼ全員ご年配。車内中の服装はジミ一色。良く言えば秋色。走り出した全席指定のロマンスカーの中、目立つ荷物を抱えた私たち。舞台の花道を歩くがごとく、観客の注目を浴びながら車掌に導かれて4号車へ向かいます。途中、狭い通路をさらに狭くしている車内販売のカートが2台もいたから、もう大変。車掌は荷物を持つことなくサッサと歩き、なぜか荷物を私に渡さない春絵は、そうでなくても派手で大きなヴィトンを頭の上まで持ち上げないとカートを交わせません。サングラスの隙間から見えた春絵の表情はとても辛そう。なんとか座席までたどり着いた私達を、斜め前の秋色オバちゃん4人組が遠慮なく見ています。

お腹が空いてきた私は急いで弁当を広げ、パクリ。春絵もパクリ。「パサついて何だか美味しくないね」となにげに見ると、目を白黒させた春絵が喉を押さえながら、「ミ、ミズ。オミズ・・・」と悶えています。急いで買いに行く私。「ウニに殺されるところだった」と興奮冷めやらぬ春絵。紙コップをきつく握り締める手を見ると、ネイルの先が欠けています。私の視線に気づく春絵。窓の外に目を向ける私。今、この列車はどのあたりを走っているのでしょう。想像して下さい、この雰囲気。ロマンスカーは小田原まで1時間25分。新幹線なら38分。

終点箱根湯本で下車すると、強羅まで同じ小田急を使う気にはなれず、タクシーで強羅花壇まで向かいました。車が旅館の前に差し掛かると、スタッフが3名ほどさっと近づき、両側のドアを開けて、出迎えてくれます。そして、すぐに荷物を持ち、あの強羅花壇の長い石畳のアプローチを誘導してくれました。背筋が伸びる思いです。春絵のヒールが小気味良い音を立てています。玄関をくぐると、緩やかに香る和の匂い。そして、正面には、僅かに色づき始めた箱根の山々が一面に広がっています。これを待っていたのです。こんな旅をしたかったのです。客室棟に案内される途中、目前に現れたのは、竹山聖氏が設計されたシンメトリックな木のオープンな通路。水をたたえた黒いタイル張りの池。ここに来たかったのです。客室へ向かうためにエレベーターのボタンを押しました。ゆっくりと扉が開くと、中は黒一色で構成された空間だったのです。 >>つづく


強羅花壇
神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300
TEL 0460-2-3331
(アクセス・箱根登山鉄道強羅駅歩3分)

http://www.gorakadan.com/

神宮前 瞬 (じんぐうまえ しゅん)
1971年生まれ。男。2匹のチワワと暮らしていましたが、最近ポメラニアンも
加わりました。 ネクタイを締めなくてよい仕事をしています。



ここは、ホテルやリゾートにあるライブラリーのように、気軽に読める文章をご紹介する別館です。旅に欠かせない「食」、旅先で見つけた「面白いもの」など、和める話題を提供していきます。ごゆっくりお寛ぎください。

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